(13)でも書いたように、古い時代の文学を読むときにはその時代背景が分かってないと理解できない…というのはあるのだけれど、現代物の時も同じですよね。50にあげた文献はマンチェスター・ユナイテッドの歴史やら現在やらを説明した本なんですが、中にマンガも含まれていて、その題名も「レッド対ブルー」。
この本、初版が2001年になってるから、2000年公開のThere’s Only One Jimmy Grimble(日本では「リトル・ストライカー」というタイトルでDVDが出てるらしい)のパクリかい?っていうマンガだったりはします。その後の展開や結末は全く違うけど。この映画はどうやら日本では公開されてないみたいですが、私はイギリス出張中に見ました。ロバート・カーライルがサッカー・コーチ役として出ています。この映画なんで日本で公開されなかったかというと、多分、まさに「背景」が分からないとよく分からない映画だからかなぁ?
つまり、マンチェスターという町には、マンチェスター・ユナイテッド(レッド)の他に、日本じゃあんまり有名じゃないけれど、マンチェスター・シティ(ブルー)っていう有名なクラブがあるんです。ユナイテッドの試合がある日はマンチェスターの町に赤のユナイテッドのユニフォームを着たサポーターがぞろぞろいるし、シティの試合のある日は青いシティのユニフォームを着たサポーターがぞろぞろいるし、ユナイテッド対シティの試合のある日は、自分がどっちのサポーターを「カムアウト」しながら町を闊歩するのはかなり危険でもあるが、そうやって「思想信条」のために危険をかえりみずサポーターの使命をまっとうするのもまた「立派」な行為だったりはする訳です。
「リトル・ストライカー」の男の子も、ユナイテッド・ファンの子たちにどんなにいじめられても、ブルーのユニフォームは捨てない。「思想信条」のために、身を張るのが正しいサポーターのあり方だったりはするのです。
実はシティの方が歴史的には「名門」らしいし、地元には根づいているのですが、最近はこのクラブ、浮き沈みが激しく、プレミア・リーグから出たり入ったり、一番ひどいときはセカンド・ディヴィジョンまで落ちたりもしてるんですが、この浮き沈みが激しくはらはらさせるところもシティの魅力だったりはします。
で、このマンガの中では、シティ・ファンの一家の娘が向かいに越してきた家のユナイテッド・ファンの同級生と一緒にユナイテッドの試合を見に行って帰宅すると、父親がそれを叱るんですね。で、「たかがサッカーじゃない」という母親に、「サッカーは単なる楽しみじゃない。重要なことなんだ。サッカーは人生そのものなんだ」みたいに言うところがあるのね。
イギリス人にとって、サッカーって「宗教」みたいなところがあって、たとえばカソリックとプロテスタントが人殺しもいとわずに闘い続けているように(>北アイルランド問題)、どこのサポーターかってのは、その人の生活にとってかなり大切なことだったりする。ユナイテッドのサポーターの人にうっかりシティのサポーターだと言うとあまりよろしくないし、その逆もまた真なり。
私の知り合いはマンチェスターに住んでいる時、シティの雑誌(各クラブはサポーターのための雑誌を発行している)をリビングのテーブルの上に置いておいたら、何かの修理に来た電気屋さんが、それを見て、それまで愛想良かったのに、とたんにとたんに無口になったんだって。で、ピンときた彼は、「いや~、これはたまたまユナイテッドのチケットが手に入らなかったからシティのを見にいったんだよ。一度はサッカーを見てみたいと思って。本当はユナイテッドのファンなんだ。ユナイテッドの試合を見てみたいなぁ」と言ったらとたんに機嫌がよくなった…というようなことがあったそうです。
このマンガによって、そういうイギリスの「文化」を学ぶことも出来るし、そういう「文化」を知っていると、このマンガをより深く、リアルに味わえたりする…。
英語を学ぶことは、まさにイギリスの文化(やアメリカの文化)を学ぶことだし、英語の単語を日本語に置き換えて、文法的には「正しい」訳が作れても、それが何を「意味」するかは、イギリスの文化が分かってないと分からない…。言葉を学ぶことで文化を学び、文化を学ぶことで言葉の理解が深まる…。そういう風に、「文化と言葉」の間を往復しながらやっていくのが語学の勉強というものなんでしょうね。
50.2月15日(月):Manchester United(PG3):1200語:7300語:543032語:☆☆☆:
ペンギンのシリーズは、何となく「掘り下げ」が浅い感じで、また、一つの一貫した視点で書かれておらず、その点が私的にはちょっと物足りなかったりするのだけれど、小刻みに話が変わったり、マンガが挿入されてたりする点が「気分が変わっていい」という人もいるのだと思います。ま、「好み」の問題ですね。私は、ユナイテッドのファンという訳ではないのだが(ベッカムのファンであったりはするが。あ、でもベッカムは移籍しちゃったわね)、オールド・トラフォードのユナイテッドのスタジアムや博物館にも行ってて(試合は生で見たことはない。ユナイテッドの試合のチケット入手は超困難)、バックステージ(?)ツアーも体験してるので(選手控え室で「ベッカムはいつもこの辺りに座る」というところに座ってきたりもしてる)、かなり臨場感を持って読んだりはしました。
51.2月16日(火):Forty Years of Pop(OFF2):700語:3600語:546332語: ☆☆☆☆:
「お勉強物」でも、なんか私ペンギンのものよりオックスフォードの物が好きだなぁ。これ、「好み」の問題だから、ペンギンが好きな人には申し訳ないけれど。最後に「こういうの読むのもいいけど、それより今からコンサートに出かけたり、CDかけて、実際のポップ・ミュージックを聞いたら?」みたいにあって、こういうとこが私、イギリス臭くて好きかも…。
52.2月19日(木):Christmas in Prague(OBW1):400語:4800語:551132語: ☆☆☆☆:
去年の夏、『グッバイ・レーニン』という映画を見ました。日本ではもう公開になったのかな? 東欧に生きた人々のドラマというのは、それはそれは深い傷跡を人々の人生や心に残していたりはする。もちろん、日本に生きていたって人生はそんなに甘くはなかったりはするのだが。私が定宿にしているB&Bのナイト・ポーターは5歳の頃ハンガリーからイギリスに逃げてきた人です。この夏初めて聞かせてもらった彼の波乱万丈な人生の話と重ね合わせてこの話を読むならば、これはとてもリアルな話でもあります。
53.2月20日(金):Chemical Secret (OBW1):1000語:11000語:562132語:
☆☆☆☆:オックスフォードのGRで私が好きなのは、最初のキャプション。これがなかなか「深い」んですよねぇ。犯罪には二種類の関わり方があって、「目を開けて」関わることもあれば「目をつぶって」関わることもある。「見て見ないふり」して次世代に「つけ」を先送りしてしまうというようなタイプの犯罪(環境問題なんかね)もある。なるほど…。「見てみないふり」…これは私も色々な場面で日常的にしている。これが積み重なると社会全体がダメになって行くんですよね、いずれ…。