剣道と私 (13)―「いいかげんな気持ちなら入部しないで」

大学生活がいよいよ始まる、というので、期待と不安で胸がいっぱいだった。しかも、ついに剣道部に入っちゃうことになりそうだし。

そしたら、4年生の女子部員第一号から電話がかかってきて「話がある」と言う。そして、このK先輩が剣道部入部にこぎつけたいきさつやその間にあったもろもろの「追い出し」の策謀や、そういうのを経て、女子の入部が許されるようになったことや、というのを聞かされた。

実は私の母校の剣道部は、私が入学する3年前まで「女人禁制」だったのだ。そのことを知らない2年生がK先輩を入れてしまった。入部当初は1-2年生だけ別に稽古するのだが(>キャンパスが分かれているので。少ししたら1年も授業後別キャンパスに通う)、そちらのキャンパスで練習している間に「追い出せ」と上級生から2年生に指令が出たという。で、たとえば、マラソンをやり、1周ごとに1番最初の者から抜けて良い・・(>K先輩は一番長い距離を走らされた)というような「しごき」をやられたりしたのだ。

稽古に来るたびに「女人はなぎなたをやりなさい」とのたまうOBもいたとか。(>この人は公立高校の教師であるにもかかわらず、勤務校の剣道部に女子の入部を許さなかった。今なら問題になるぞ!)

しかし、K先輩は、強かった! この横暴な先輩の心さえ溶かしてしまったのだ。「まぁ、女とは言え、君は別」という感じに、態度が軟化してきて、私が入部する頃には、イヤな顔ひとつせずに私なんかにもちゃんと稽古をしてくれた。

女子を入部させない理由というのは、「女には剣道は分からない」だの、さまざまだったらしいのだが。

「そういう訳で、女子が入ってきたから剣道部が弱くなっただの、部としての一体感がなくなっただの、やりにくいだの、風紀が乱れただの言われると今後、女子が入れなくなる可能性があります。本気で剣道やりたいのならいいけど、いいかげんな気持ちなら入部しないでください」とキッパリ言われた。

うーむ。

これもさぁ、そもそも、本当は男女共学の大学にあって、同じ額の授業料を払っており、同じだけのサーヴィス提供を受ける権利のある女子に、「女子はダメ!」と言う方が理不尽なのであって、そういう理不尽なことをしている連中にこっちが合わせる必要なんてないぢゃん!と、今なら思える。

しかし、まだまだ年若く、純真な乙女であった私としては、「あちゃー! こりゃ、大変なところに来ちゃったなぁ」と思った。

なのだが、ついつい、「あぁ、そうですか。じゃ、やってやろうぢゃん!」みたいな気分になってしまったのだよねー。

で、この尊敬すべきサムライな女性の先輩に私は着いて行くことになったのであった。

この先輩は、ある意味、「男社会に切り込む初期の女性の典型」のような苦労をした方であり、また、そういう女性の典型のような方であった。剣道部でもそうだが、仕事の上でもそうであって、「女性初の○○」というのになられ、一時期は、週刊誌からの取材申し込み殺到!という状況であった。

女性パイオニアは「男性以上に男性」と言われるけれど、この方も見事に「男社会」の価値を体現してらっしゃるようなところがあった。父上がたたき上げの警察官であった、というのもあるかもしれない。パイオニアになるには、いずれはその価値を脱構築していくとしても、まずはその「価値」や「ルール」を理解していないとなかなか中に「入る」ということが出来ない。

しかし、この方は、同時に、非常に細やかな女性らしさも持ち合わせてらして、「力で押すだけ」じゃない、しなやかさもあり、だからこそ、「女性初の○○」になれた、というのもあるのだと思う。

私の人生において、この方との出会いはとても大きなものがあった。この方から本当に多くのものを学んだし、私は、剣道の指導も沢山していただいたけれど、食事をご馳走になったり、服をいただいたり、とても可愛がっていただいた。お家にもずいぶんと寄せていただいた。

しかし、「K先輩、私、ついて行きます!」という決意をしてしまったために、私の大学4年間は、「女の子らしい」香りが全くといってないような、バンカラな汗臭いものになってしまったのであった。(>ついでに、「知的な」香りも少なかったかも。剣道やる熱心さで勉強してたらナンボのものになってか・・・と思ったりもする)

剣道と私 (12)―オリエンテーションでの勧誘

まぁ、15歳で始めたっていうのは、それなりの意味はあった。

でも、私の剣道が本当に伸びたのは大学に入ってからだ。大学では週4回以上は練習してたし、やはり、プロの指導者のいるところでやってたからだ。

しかも、非常に質の良い指導者が教えに来てくれていた。NHKの剣道の試合の解説をつとめるような人もいたし、他の大学で教えてらっしゃる先生で全日本で何度も優勝している人がたまたま「国内留学」という形でうちの大学に籍を置いていて、1年間みっちり指導していただいたりもした。

だから、私の剣道が「伸びた」と言っても、それって、指導者に恵まれただけかもしれない。しかし、なので、指導者に恵まれるということは、ほんとうに大事だっていうのも身に沁みて分かった、というのもある。

大学時代のことを振り返ると、胸が苦しくなるような思いがする。もっとチャラチャラした青春を送りたかったなーと思ったりすることもある。いろいろな意味で苦しい4年間だった。その4年間の生活の中で剣道部の部活が占めていた割合はとても大きい。

大学に入っても剣道を続けたい!という気持ちは持っていた。しかし、私の剣道は、強豪私立ではついていけないだろうなぁという思いもあったので、私の第一志望は、「○○大学△△学部」に行きたいというより、「○○大学剣道部」に入りたいというのもあったかもしれない。第二志望は、スポーツ推薦なんかで入ってくる子もいたりするので、きっと無理かなぁ・・・と思っていたのだ。

だけど、一方で、第一志望の大学にあるというフィギュア・スケートのサークルにも興味があって、あの時フィギュアの方を選んでいれば、私のバレエももうちょっと違ってたかもなーという思いもあったりする。

どこの大学もそうだと思うけれど、新入生歓迎の催しでは、部活の勧誘の人がオリエンテーションに来る新入生をひっつかまえて、(しつこく)勧誘する。

私はまず、女子バスケの人に掴まって勧誘されたのだが、「もし運動部に入るなら剣道部に」と言ったら、その女子バスケの人が、「剣道部~!!!」と大声を上げて、剣道部の人を呼び、私は剣道部の先輩に拉致されて剣道部の机のところに連れていかれた。

体育会は人材確保が大変なので、お互い協力体制を敷いているのだ。

で、一応名簿に名前を書いた。2段だと言うと、「おぉ、是非入って!」と言われ、「じゃあ、悪い虫がつくといけないから、君はこっちから行きなさい」と他の部の勧誘を受けないように誘導されて、オリエンテーションの会場に連れて行かれてしまった。

なので、他にどんなサークルや部活があるのかなーというようなのを、知らないままに私は結局剣道部に入ることにしてしまった。あの時、あのながーい列の中をちゃーんと歩いて通っていたら、どうなってたのかなぁ・・と思ってみたりもするのだけれど。

剣道と私 (11)―大学浪人中に2段を取得

現役の時は、大学受験は見事に落ちた! という訳で大学浪人をすることになった。

「何にも楽しみのない生活もなぁ」と思い、近くの自衛隊の剣道教室に、週1回通った。大学に入っても剣道をやるつもりだったので、大学に入る前に2段を取りたいというのもあった。

高校時代は、たしかに経験者はいたし、OBなんかも来てくれたけれど、実は、プロの指導者はいないところでやっていた。顧問の先生は、弓道が専門だったので、剣道部の方は名前だけ。合宿に来て怪談とかはしてくれたけど、剣道の指導はしてくれなかった。

この自衛隊の剣道教室は、それなりの高段者が何人もいて色々教えてくれたので、「なるほどー」と思うことも多かった。

で、夏に無事2段を取得することが出来た。

「週1回くらいは来た方が勉強も進むんじゃない?」と言われたけれど、秋からは受験勉強に集中することにして、剣道教室もやめた。

・・・という訳で、大学に入る前にやってた剣道って、都合丸2年くらいなんだね、今思うと。

剣道と私 (10)―タフ

「運動は苦手」と思って子ども時代を過ごして来たのだが、女の子が外遊びなどをしなくなり、運動部でもない限り運動量が減る頃から運動を始めたせいで、少しずつ、みんなとの運動能力のギャップを埋め、部分的には追い越すようにもなって行った。

私は朝が苦手で、また、踏み切りを超えるバス通学をしていたため、遅刻しそうになって(>遅刻も多かった)よく走ったというのもあるかもしれないが、自分は特に持久力に優れているらしい・・・というのにも気づいた。高校の体育の持久走のタイムはなかなか良くて、クラスマッチや運動会の駅伝には毎年のように選手になった。

剣道部でも、みんなに混ざって練習するようになると、すぐにまわりから言われたのは「お前タフだなぁ」ということ。なぜか、あんまりバテないのよね。

いやぁ、知らなんだ。私って、けっこう体力あるのかな?

進学校だからか男の子にもひ弱な子がいて、ジョギングなんかすると私より遅い子がいたりして、その子にはいつも嫌がられてた。追い出しコンパの時だったか、「ジョギングの時、お前が後ろから迫って来て、たまに追い抜かれたりするの、すごーく嫌だった」と言われた。しゃーないぢゃん、あんたが遅いんだし!

当時は、まだまだ男尊女卑みたいな部分があったから、合宿なんかの時も、バテバテの男子の中で私が元気いっぱいに練習してたりすると、「ほんっとお前ってタフなぁ」と、嫌そ~に言われた。男の子なら、「お前すごいなぁ!!!」と手放しで誉めてもらえるんだろうけれど、彼らの、「タフなぁ」の中には、そういう手放しの誉め言葉とはとても思えないようなニュアンスがあった。

まぁ、私が元気だったのは、あるいは、同じ地稽古にしても男子の方が動いていて、私の動きが少なかっただけなのかもしれないが。

女子部員は夏までは4人いたけど、合宿後は2人になってしまったし、もう一人は体力がけっこうなくて、すぐバテバテになって練習をリタイアする子だったので(>日舞はうまいのに)、余計、私のタフぶりが目立ったというのもある。

私の行ってた高校は当時、女子と男子の割合が、1対2くらいで、理屈から行けば、モテても良いのだが、そんな訳で、私は、「女の子のカテゴリーの外枠」扱いを受けるハメになってしまったのであった。

自分のこと「弱い」って思ってたけど、そうでもないのかなぁ・・・って、ちょっと自信が持てて来た頃でもある。

ただ、「運動をする」という場での体力と、仕事や勉強を長期に続けるという場での体力は別物の部分もある。なので、そういう仕事や勉強の長期的体力については、私はまだまだ根本のところでは自信を持てなかったし、実は、今も持っていない。もし、この点で自信が持てたり、実際に自信を持てるだけのものが自分にあれば、私はもっと違う進路を選んでいたかもなーと思う。

剣道と私 (9)―不協和音

この掛け声を、単音じゃなくて、不協和音で出せるようになるのも、また年季がかかる。

最初はテレもあるし、なかなか大きな声を出せないし、仮に出したとしても、「やー」とか「さー」とか、単音である。それが、しばらくしてくると、和音になってくる。

だから、掛け声を聞くと、多少は年季の入った剣士なのか、初心者なのかってのは、すぐに区別がつくようになる。

私も、不協和音が出せるようになったのは、大学に入ってからかもなー。

剣道と私 (8)―「赤ちゃんが起きちゃったじゃないの!!!」

剣道っていうのは、「声を出す」っていうのも大事な練習のうちである。「ギャー」とか「ヤーっ」とか、ちょっと字に書き起こせないような奇声を発しながらやるのだが、あの声にも重要な意味がある。

なので、新入生は「発声練習」というのをやらされる。

私の高校では、2年生と1年生が校庭の端にそれぞれ列になって、1年生が「めーん、めんめんめんめんめーん」と、「切り替えし」というのをやる時の掛け声をかける。2年生のところまで聞こえれば「よーし!」と○が出るけれど、聞こえないと「聞こえないぞー。やりなおしー」となる。

これをやってる時に、近所のお宅のお母さんが、「赤ちゃんが起きちゃったじゃないの!!!」と怒鳴り込んで来たことがあった。たしかに近所迷惑だよねー。

学校のそばに住むって、大変よね。

剣道と私 (7)―試合

私の剣道もだんだん上達し、同学年の経験者や上級生から誉めてもらうことも多くなった。いろいろな駆け引きや、スキを見つけて打ち込むのは、面白い。

1年生の2学期も終わりに近くなる頃から試合にも出してもらえるようになった。

ところが、これが勝てない!!!!

まぁ、始めて1年も経ってないなんだから、勝てなくて当たり前なんだけど。

2年になって、5月頃にインタハイの予選があった。その頃には、最初4人いた女子が2人になっていた。上の学年に女子がいなかったので、インタハイの予選には女子の部は私ともう一人が出た。男子は2年の部長ともう一人。4人で予選に行った。

部長じゃない方の子に「お前さぁ、練習の時は強いんだから、練習と同じにやれよ。そしたら絶対勝てるはずなんだから」と言われて、「普段と同じ、普段と同じ」と思ってやってみた。

そしたら、4回戦まで進出してしまった。あともう1-2回(>ってここから勝つのは難しいんだろうけれど)勝てればインタハイに出られたんだけど。

そこから先は、いろいろな練習試合があったけれど、面白いように勝てるようになった。私立の強豪校の子には勝てないけれど、普通の公立高校で同じような条件でやってる子にはたいてい勝てる。

まぁ、波もあったけど。

後に、大学に入って、全日本で何度も優勝している方の指導を受ける機会があったのだが、その方は、「強くなるコツは勝つこと」とおっしゃってた。「勝つごとに勝つコツが分かっていく」と。

試合は面白い。私は試合が好きだった。勝てるようになったからっていうのもあるけれど。

あの緊張感と高揚感がたまらない。

私の高校は進学校だったので、部活は2年の夏で終わり。なので、実質1年半の部活だった。

いつ取ったんだったか忘れたが、2年生のいつだったかに初段も取った。

剣道と私 (6)―夏合宿

暑い最中、夏合宿があった。4泊5日だったか5泊6日だったか、けっこう長い。私の高校には同窓会の建てた会館があり、そこに宿泊出来るようになっている。

朝は6時頃からラジオ体操があり、その後、近くの公園まで走る。往復6kmくらいかな? それが終わると朝食。ちょっと休んで午前中の練習。昼食を食べて、しばらく休む。疲れているので眠ってしまうことが多い。3時くらいから午後の練習。夕食。入浴。みんなでおしゃべりしたりして、就寝。

合宿くらいから、ただ打ち込むだけじゃなくて、懸かり稽古(>相手が隙を作ってくれたところに打ち込む)や地稽古(試合形式の稽古)も始まった。ゲーム性が出てきて、ちょっと面白くなってきた。

相変わらず、打ち込まれると痛いんだけど、上手な人だと打ち込まれてもそんなに痛くないことも分かってきた。でも、上手な人も「はずす」ことがあるので、そういう時は、肘や脇にアザが出来る。(>防具がないところを打たれると上手な人でもとっても痛い)

でも、打ち込んでそれが「当たり!」のところに決まるとすごーく気持ちいい。

懸かり稽古や地稽古で動きが激しくなってきたら、今度は足の裏の皮がむけるようになって、これもちょっと「盲点」であった。

うーん、剣道って、「痛いスポーツ」だったのね!!!!

いろいろと、思ってもみなかった、「うそ!!!!」ということはあったのだが、でも、やっぱり面白さもあって、私はだんだん剣道にはまって行ったのだった。

剣道と私 (5)―恐怖の夏休み!

夏休みからは、いよいよ、防具をつけて、稽古をすることになった。わーい!!!

ところが!!!!

防具をつけて、「打つ」ばっかじゃなくて、自分も「打たれる」ことになってみたら、これが痛いのよ!!!!

知らなかった!!!

知ってろよ!!!って感じだが。

剣道は、打つ瞬間に、雑巾を絞るように竹刀を握っている手を絞り込む。ところが、1年生の初心者はこれが出来ていない。なので、1年生だけで、互いに「打ち込み」の練習をすると、すっごーく痛い!!!!

これ、上手な人だと、打ち込まれてもここまで痛くないんだが、上手な人たちは上手な人ち同士で練習する必要もあるし、上手な人は私たちとやる時は「打たれ役」に回って、私たちを「打ち込み台」にしないので、上手な人ならこんなに痛くないっていう「比較」もする機会がない。

そして、防具が臭い!!!!

これも、知ってろよ!!!という感じだが、私は、剣道って、なんか「さわやかで清潔」なイメージがあったのだ。

高校に入って運動するなら武道かな?と思った時、「柔道ってなんか不潔そうだし」と思ったのだが、柔道の方がよっぽど清潔。だって、防具って、肌に直接触れてるのに洗濯しないんだよぉ!!!! 柔道の方がずーっと清潔!

という訳で、夏休みの練習は、毎回、「あぁぁぁ、なんで剣道部なんかに入っちゃったのかなぁ」と思い、とりあえずはバスに乗るのだが、バスに乗っている間中ずーっと、「このバス降りたら帰ろう」と思っている。でも、やっぱり乗り換えて次のバスに乗ってしまう。で、「このバス降りたら今度こそ帰るぞ!」と思うのに、やっぱり行ってしまう。

学校について更衣室に行く。着替えないで帰ろうと思うのに、着替えてしまう。体育館に行く前に帰ろうと思うのに行ってしまう。防具をつけてる間も、この防具つけたら、「やっぱり帰りますって言おう」と、思うのだが、立ち上がって練習に入ってしまう。

打たれて痛いのはイヤ!!!!っていうのはあったのだけれど、でも、それでも、すでになにがしかの剣道の面白さというものにはまっていたのかもしれない。

剣道と私 (4)―剣道部に入部!

そんな訳で、高校入学と同時に剣道部に入った。

すでに中学までに剣道の経験のある者は防具をつけて稽古に入っていたが、私を含め、7-8人の初心者は、2年生が、基礎から練習を見てくれた。

まずは素振り。それからすり足(>剣道は足を地面から離さずにすって歩くのです)の練習。先輩がかかげてくれている竹刀を打ち込む練習。防具を着けて、練習台になってくれる先輩の面やら小手やらを打ち込む練習。

先輩たちも親切で、それなりに楽しくやっていた。剣道部に入って正解だったかも!