夢のような日々 (3)- みんなが優しい

みんながポアントはいてる間に先生が私だけ「補講」して下さってる時って、子どもたちの前で「大人」なのに何もできない私が1人で「さらしもの」になってた訳なんだけど、そんなことも全く気になりませんでした。「踊れる」っていうことが幸せでたまらなかったから。そして、ポアントはきながら、真中で1人「基礎の基礎」をやってる私をなんとなく見ていたみんなの目が優しかったから。

ここの教室の先生達やレッスンメイト達は、本当に優しかった…。プリエが何かも知らない私、ゼロの私…。そんな私を知ってる人達に見守られながら、私はバレエの階段を一段ずつ上がって行きました。

先生もレッスンメイトも、ちょっとしたことで、よく誉めてくれました。私は腕は太いし(剣道やってたので)短いし、チビだし、バレエ向きのプロポーションじゃないんだけど、先生は「あなたは首が細くて長いからバレエに向いてるわ」とか「あなたは脚が外向きだから(つけ根は本当はそうでもない)バレエに向いてるわ」とか言ってくれて…。

レッスンメイトも、「少しの間にすごくうまくなったよ」とか、「あなたはうしろにそるのが柔らかいよね(後ろはマシっていう程度。前は超かたいので)」とか、色々声をかけてくれました。弱点だらけ、欠点だらけの私なんだけど、それでも一つまた一つと良いところを拾い上げては励ましてくれるんです。

中学生の子ども達とは、最初のうちはそんなに言葉をかわすこともなかったんですけれど(後にはおしゃべりもするようになった)、でも、きっとすっごくヘンテコな動きをしてた私を笑うような子は一人もいなかった。

それは何よりも主催の先生がバレエを好きで好きでたまらなかったから、先生の「バレエを愛する心」が生徒さんたちみんなに伝わってたから、だから「バレエを好きになった私」をみんなが暖かく受け入れて見守もってくれたんだと思うんです。

夢のような日々 (2)- 「出来なくてもいい」ということの幸せ

当時、自分の仕事上の「夢」に向かって歩いていた私にとって、仕事の修業は毎日が劣等感との闘いでもありました。その道で「プロ」になるには、「できない」は許されない…。まぁ、今となっては、本来は自分が好きな道だった訳だから、もっともっと楽しむことが出来たのに…と思いますが、若かった当時の私には、「楽しい」 ことより「苦しい」ことの方が多かった。

でも、バレエは「出来なくても」いいんです。趣味だし、みんなは子どもから始めてるのに私は大人から…。出来ないのが「あたりまえ」。このことは、まだまだ続く私の仕事上の修業を続けるにあたって(今も続いてます)、とても良い「精神安定剤」になってくれました。だから、当時の私には、バレエは本当に心が休まる時間、癒しの時間、心を開放できる時間でした。それまで、「出来ない」自分を責めて暮らしてきた時間が長かった私には、「出来なくてもいい」がとても新鮮でした

夢のような日々 (1)- 初レッスン

遠い昔の初レッスンの日、どんな風だったかは、実は、良く覚えていません。いきなり5番がキッチリ入ったので(といっても足首から先だけなので、これは「きっちり」とは言いませんね)、助教の先生が、「すご~い!」と誉めてくれて、そのことは覚えてます。今思うとみんなが「誉め上手」な教室だったな~。

 「だんだん慣れてくるから、前の人のを見てやってね」と言われて、とにかく見よう見真似でやってました。T教室には大人のクラスがなかったので、私は中学生以上の子どもたちの「ジュニア・クラス」に参加させていただいていました。そのクラスには高校生や大学生のうちの上手な子たちが所属する「高等科」の生徒や助教の先生
たちも参加していました。

 「とにかくやっちゃう」っていう感じ。バーもいきなりかなり複雑だったし、今思えば、フロアもいきなり複雑だったし、どうやってやってたんだろ????って思いますけど。でも、みんながポアントに履きかえる間なんかを利用して、T先生が私だけ「補講」をして下さり、だんだんパの名前を覚えて行きました。

私以外は全員が子どもの頃からやってた人ばかり。「大人で始めた」という人もいたことにはいたのですが、始めたのはみんな18歳くらいの時。私みたいに「本物」の大人になってから始めた人はいませんでした。大人からの再開組も何人かいました。

そんな環境だったから、「出来ない」ということにコンプレックスを持つこともなく、ただただ「バレエを始めることが出来た」ということが幸せで、毎週レッスンが楽しみで仕方ありませんでした。

バレエとの出会い(2)

「大人になってもバレエを始めることが出来る」ということを知った私が次にしたことは、教室選び。

当時はまだ大人のバレエはさかんではなかったのだけれど、少しずつ大人のバレエ・ブームが始まりかけていた頃だったのかもしれません。バレエ関係の本の出版なども少しずつ盛んになってきていました。

私 が参考にしたのは、マーゴット・フォンテンの『バレリーナの世界』でした。その本の中で、彼女はバレエの先生を選ぶ時の注意点に言及していました。当時私 は実家の近くに住んでおり、小学生の頃友達が通っていたバレエ教室(で、私も行きたかったけど行かせてもらえなかったところ)が、通うのに便利なところに ありました。その教室、T教室の案内を読む限りでは、マーゴット・フォンテンがあげた 「通っても良い教室」の条件をほぼ満たしていると思えたので、大人を受け入れてくれるかどうか、問い合わせ、先生をお訪ねました。

当時す でに結婚していたのですが(学生結婚)、夫もつきそって来てくれました。私の夫は、かなり「バター顔」(古いなぁ)で、欧米人っぽい体つきです。東北出身 なので多分ロシアの血が先祖のどこかで混ざっているのではないかと思います。T先生は「大人でも大丈夫ですよ」と力強く私に言ってくださったのですが、私 よりは夫の方にずっと興味を示し(ロシアのダンサーっていう顔つきと体つきなので)、「ご主人もいかが?」としきりに勧誘していました。残念ながら入門し たのは私だけでしたが。

当時29歳になったばかりの私はこうしてバレエを始めたのです。

バレエとの出会い(1)

私がバレエを始めたのは、今を遡ること十数年前のこと。当時私は大学院の学生で、英会話学校に通っていました。

あ る日英会話のクラスが終わって、帰る方向が一緒のクラスメートの1人と電車の中で一緒になりました。彼女はかつてはプロのバレリーナとして舞台に立ってい た人ですが、「教え」の方に転身するため、イギリスに留学しRADの資格を取って帰国したばかりでした。彼女はRADのもっと上級の資格も狙っていたの で、その後も英語で試験を受けつづけなければならず、英語をブラッシュアップするために、そのクラスに通っていたのです。

たわいないお しゃべりが続く中、私は、ほんの話の「接ぎ穂」のような感じで、 「私、小さい頃バレエが習いたかったんだけど、習わせてもらえなかったんですよね。大人になってからじゃ無理ですよね」と言いました。私が予測していた答 えは 「もちろん無理です」というもので、これはまぁ、「質問」というよりは、単なる会話をはずませるための「挿入句」みたいなつもりでした。

でも、彼女の答えは私の予測とは180度違って、「あら、プロを目指すんじゃなければ何歳からでも始められるわよ」というものでした。

これで私の人生変わっちゃったんですよねぇ。