イギリス・バレエ・ライフ (1)-NBSでのレッスン

1994年夏のM大学における留学生のための語学コース参加中の「良く学び、良く遊べ」な生活の合間にも、私の頭の片すみにあったのはいつもバレエのこと。Qとこちらで暮らすことになった時、どこでバレエを習えば良いのか…・。

ロンドンではパイナップルで何度かレッスンしたことがあったけど、地方都市Mのバレエ事情については全く知らない状態でした。

で、イギリスで何かお店を調べようと思ったら、まずは「イエロー・ページ」(職業別電話番号帳)。市立中央図書館に行って「イエロー・ページ」のバレエ・スクールの項目を探しました。するとNBSというフルタイムのバレエ・スクールで大人のクラスも開講しているらしいことが判明。次に同じ市立中央図書館の芸術関係の本の置いてあるフロアに行き、バレエ雑誌をチェック。その結果やはりNBSに大人のクラスがあるという情報がありました。

NBSはM大学からも近いし、RADの学校だということだし、「イエロー・ページ」やバレエ・雑誌に載ってる情報を見る限り、かなりしっかりした学校のように思えました。で、まずはアドレス帳にしっかりと住所と電話番号を書き入れ、英語コース中に電話もしてみました。しかし、丁度その時は夏休み中で、9月の半ばから週1回大人のクラスが開講されているということが分かりました。イギリスでは大人のクラスでもかなり長い夏休み(ほぼ2ヶ月)があります。クラスは、バレエ初心者クラス、バレエ中級クラスの他コンテンポラリーとジャズ(だったかな?)がありました。

とりあえず、それだけチェックして9月に帰国。3月末まで仕事して、いよいよ英国に向けて出発。夢に見た英国暮しです。心配した母が、「落ち着くまで」と最初の3ヶ月くらい一緒に来てくれました。(世の中で良く批判される「母親を単身赴任先に連れてくキャリアウーマン」ってやつですねぇ)

さすがに最初の半年は新しい生活に慣れるのに精いっぱいで、バレエどころではありませんでした。「子連れ」であること「母子家庭」であることを考え、住居は大学の寮にしました。運良く、家族連れOKの寮に空きがあり入居できました。その寮は 「ミックスト」というのがポリシーの寮でした。すなわち、シングル、カップル、 ファミリーという点でも、学部学生、大学院生という点でも、また学生の国籍という点でも、色々な人々を「ミックスト」する。

大使館への登録やら免許の書き換えやら、ロンドンに出てやらなければならない手続きもいっぱいあったし、最低限の家具は揃っていましたが、鍋釜の類や食器を買ったり、TVを買ったり、TVのライセンスを買ったり(イギリスではTVを見るにはライセンスを買わねばなりません。買わなくても映りますが、違法行為なので摘発される
と留学生だし面倒です)…。

Qも最初のうち保育園に行くのを嫌がり、保育園への曲がり角で私の手を引っ張って「お家帰ろう」と言うのが不憫でした。私の仕事は子どもにこんな思いさせてまでする価値があるんだろうか…と考えこんでしまうこともしばしばでした。でも、Qも少しずつ保育園にも慣れ、なんとか生活が軌道にのってきました。R先生には2週に一度、面接していただき、あらかじめ提出した原稿をもとに色々助言をいただいていました。

夏休みに夫が来てくれて、その間に自動車を買ったり、教習を受けたりしました。イギリスには「ラウンドアバウト」という日本にはあまりないシステム(日本で言うロータリー)があり、「日本人がイギリスで起こす交通事故の80%はここで」というほど、慣れるまでは難しいシステム。でも慣れてしまえば、なかなか良く出来てるシステムです。

車もゲットして、生活が楽になったので、9月半ばを待っていよいよバレエの再開です。私は、QもいるのであえてPh.Dのコースには入らず、MPhilというコースに入りました。論文主体のマスター・コースで取らねばならない授業の数も少ないコースです。9月からはそちらのクラスも始まるので、忙しくはなったのですが…。

NBSのクラスは、半年近くレッスンがあいてしまったので、最初は初心者クラスに行きました。でも、何とかついていけそうだっし、先生だったかレッスンメイトだったかに「あなたは中級の方がいい」と言われ、次の週には中級クラスに出ました。中級だと、ちゃんとは出来ない部分もあったけれど、雰囲気がとてもバレエっぽくて、やっぱりこちらに出ることにしました。

フルタイムの名のあるバレエ学校ですので(プロ養成が前提)、そういうところでレッスンしてるんだ…という感慨もありました。更衣室も学生さん達のキャラクター用のスカートがかかっていたり、ポアントが何足もかけてあったりして、「バレエ学校~!」っていう雰囲気です。掲示板にはオーディションのお知らせなんかもいっぱいあります。フルタイムの生徒さんたちと更衣室で一緒になることもあります。みんな美しい…。

スタジオは天井がうんと高く、とても広い。もちろんピアニストさんがつきます。先生はムーブメントがとても優雅。動きが少し大げさなので、RADって言ってるけど、先生自身はロシア風の訓練を受けた方なのかしら。ピアニストさんもとても音楽的な方で、音楽的にして、かつ踊りやすい演奏をしてくれます。そして、いつも踊ってる私達を気にしながら演奏してくれるので、ピアニストさんと心を通わせ通踊る…という、本来のバレエのあり方も体験することが出来ます。バレエって本来、音楽を演奏する人と踊る人の「相互作用」なものだもんね。

細かい注意はしてくれないけれど、バーの各ステップの注意やアンシェヌマンの前の注意はきちんとして下さいます。この注意をいかに「自分で」生かせるか…がイギリスでのバレエ・レッスンの「勝負」ですね。

バーやフロアの組み立ては、とても優れていると思いました。身体が徐々に開いていくように出来ている。フィジカルにも考え抜かれている上に芸術性のある、とても楽しめるレッスンでした。アンシェヌマンも一度終わった後に非常に的確な注意を「一般的に」ですが、して下さるので、2回目に踊る時には「改善」がちゃんと感じられる・・。

でも、いくら自分で注意してても、自分1人の力で「正しい」やり方を身につけることはむずかしい・…。先生に個人的に注意してもらってはじめて、実は自分が「そっている」とか「お尻が出ている」とか、そういうのに気づけるんですよね。