また、「オール・オア・ナッシング」思想の強い日本において、「プロにならないのに大人になっても趣味を続ける」という考え方は、最近でこそポピュラーになってきてますが、しばらく前まではそんなにポピュラーじゃなかったと思います。
受験勉強で習い事をやめてそのまま・・・という人は沢山いたし、まぁ、今もいると思います。大人になって習い事(お茶とかお花ではなく)を続けている人、というのを身近に見る機会も比較的少なかったと思うんです。
私について言えば、母が大人になってからピアノを始めたり(ピアノはあんまり長続きしなかったけど。でも実は彼女は最近また再開してます)、亡くなった父が大人になってから声楽や社交ダンスを習ったり、スキーや登山を始めたり(戦争がありましたので大人になってからじゃないと始められなかったという事情もあるんだけど)、という例を身近に見ていたにもかかわらず、(2)で触れた従妹に対する発言を見ても分かるように、「習い事は小さい頃から」思想、「オール・オア・ナッシング」思想に染まってしまっていました。私ってば、親より頭が固かったのね~。
ピアノは、大学受験を理由に高校2年でやめましたが、本当の理由は大学受験じゃなくて、「音大には行かない」ということが「改めて」明らかになった、ということだったと思います。母は「細々でも続ければいいのに」と言ってくれていたんですが・・・。今思えばもったいないことをしました。
音大を目指したことは小さい頃からなかったし(一時期作曲家になりたかったことはあったけど)、そも最初から「可能性はこれっぽっちもない」と思って過ごしてきました。それなのに、高校2年になろうという春、先生から、「あなたは音大は受けないのよね。受けるんだったら今言ってちょうだい。今言ってくれないと間に合わないのよ」と言われたことが、私にはすごくショックでした。
私にも行ける(かもしれない)音大がある、という「衝撃の事実」(まぁ、行けた、というより、受験できたとして、一番入り易しいところしか受けられなかったと思うけどね)に、高校2年になろうという、その時まで気づかないで過ごしてきたっていうか、そのこともショックだったし、自分には才能ないって思ってダラダラ過ごしてきた過去の時間もショックだったし。で、まぁ、一気に気が抜けてピアノをやめてしまいました。
ずっと後になって、新婚の大学院の先輩の家に遊びに行った時にピアノをずっと続けている奥様から、「私の先生はピアノを一生の友達にしなさいって言ってたの」と聞き、なんと言うか、衝撃を受けました。そうか、ピアノとずっと付き合って行けるんだって。
ピアノについては、その後一度再開し、またしばらく離れ、息子と一緒にまた再開して、その後超細々と糸がつながってる状態で、まぁ、たとえていえば、「昔すったもんだあった男と今はいい友達になってるけど、時々古傷が痛む」っていうような関係かな。
小学生の頃から音楽は好きだったし、音楽活動は好きで、小学校の合唱団、鼓笛隊、リードバンド(朝礼や入学式卒業式の演奏をするバンド)と音楽関係の団体は総ナメにし、中学でもブラスバンド部(ホルンとフルート)に所属していたんですが、「ピアノ<音楽」という観点で捉えたことはついぞなかった。なんというか「音楽」と「ピアノ」は私にとってはいつも別モノだった。
まぁ、単に私の了見が狭かった、考え方に柔軟性がなかった、ということを暴露してるだけなんですが、「大人になってからも続ける」ということが、バレエよりはずっと受け入れられそうなピアノにおいてさえこういう色々なことがある訳ですから、子どもの頃から続けているバレエを大人になっても、仕事をしながらでも、家庭がありながらも、「続ける」・・・ということ、これもやっぱり最初から受け入れられていたことではないんじゃないかと思うんですよね。
で、私が通っていたT教室でも、大学受験が終わってから復帰してくる子たちっていうのが一定人数いて、で、大学や短大を卒業して就職からも続けてた子たちが何人かいたんです。「大人から」のバレエを考える時やっぱりこの人たちの存在って大きいと思う。
「大人からのバレエ」でなく「大人のバレエ」というカテゴリーで考えるなら、こういう継続組が「大人のバレエ」のコアを強くしてくれている。就職しちゃうと学生時代みたいに時間が自由にならない。練習時間が減るので以前出来たことが出来なくなる場合もある。そういう葛藤の中で、「でも踊り続けたい」と踊り続けてきた人たち。
「大人から」組を可能にしてくれた前提には、大人になって仕事を持ちながら、家庭に入りながらもバレエを続けてきた人たちの「情熱」が、「バレエを好きな人たちには踊らせてあげる機会をあげましょう」と先生たちに思わせたということがあるんじゃないのかな・・と思うんですよね。バレエが好きなら仕事や家庭があっても踊り続けることが出来るのね・・・ということを、継続組が示してくれた。
継続組は「大人から」組に比べれば、技術面ではすっごい有利だと思いますが、実は「大人から」組より葛藤も深いと思います。そういう葛藤がありつつも、「大人から」組に親切に助言してくれ、「大人から」組を最も支えてくれるのが、継続組の先輩たちなんだと思います。
そして、「大人から」組の存在が、逆に継続組が踊り続けることを助ける役目を果たす場合もあるかも・・・と思います。大人になっても楽しそうに踊ってる大人の初心者の姿を見て、「私も就職してからも趣味で続けてみようかな」っていう風に良い刺激を与えることもあると思う。「あ、大人になってからでも始められるんなら、続けることはもっと出来るかも・・・」と言うヒントになる場合もあるかも・・。
T教室の場合は、私が入門した時には大学受験後戻ってきた子たちはいたけど、就職してる継続組はいませんでした。でも「準大人」が就職してもバレエを続けたことが、就職してからも続ける子たちを生んだんじゃないかと思うんですね。その後、学校を卒業して続ける子が出てきました。
「大人のバレエ」はこうやって色々な大人が支えあいながら発展してきたんだと思います。