夢のような日々(20)-「大人のバレエ」開拓者

夢のようなT教室での日々を振りかえってみると、私はここでは、「大人のバレエ」 じゃなくて、「子どものバレエ」をやってたのかもな~と思ったりもします。たとえば、子どもも、みな一斉にバレエを始める訳じゃなくて、3歳で始める子も5歳ではじめる子も7歳で始める子もいる訳です。少し遅く、中1とか高1とか18歳とか。

まぁ、最近だと中1の子なんかは「大人のクラス」になっちゃう場合もあると思うけど、初心者の子どもって、すでに習ってる子に混ざって、少しずつみんなに追いつい ていく…。私のバレエって正にそうでした。

発表会も「みんなと一緒」。ポアントこそ、18歳くらいで始めた人は1年ぐらいで許可が出ていたのを私の場合2年かかったけど、アダージオのクラスにも入れていただいた。

だから、私は「うんと遅れてきた子ども」だったんじゃないかなぁと思います。

T先生に言われたことがあります。「あなたは身体もだけど、心がとても強い人ですね。普通は大人で始めてここまで来られる人はいませんよ」って。

大人で始めて、私程度の人は実際には5万といますけれど(私以上の人の方が多いでしょう)、T先生にとっては、私は「驚き」だったんでしょうね。こうやって、私みたいに、色々な教室で、「大人がここまで来られるとは…」と、先生達を驚かせた大人が沢山いる…。だから、大人のバレエはこれだけさかんになったんだと思います。

だから、私は他のみなさん同様、「大人のバレエ」開拓者の1人。そのことには誇りを持っています。決して踊れる訳じゃない。でも、私が切り拓いてきたものは、確実にある。そのことには自負を持っています。全国津々浦々で、私と同じように、最初は「教室でたった1人の大人」だった人達が、「大人でもけっこうやるのね」と認めてもらえるだけの努力をしてきた…。そういうことだと思います。

私にバレエを愛する心を教えて下さったT先生。私はT先生の下でバレエを始めることが出来て本当に幸せでした。そして、TJr先生や、助教の先生達、そして「一番年上の末っ子」の私を受け入れて大事にしてくれた優しいレッスンメイトたち。大人の私を受け入れてくれた子どもたち。舞台では私をかばって踊ってくれていた子どもたち
(これには後で気づくんですが)。

私は本当に幸せでした。なくかしく甘く夢のような日々…。

あのままQを授かることなくT教室でバレエを続けていたら、今、私はどこにいただろう…。考えても仕方ないことだけど、時々、考えてしまいます。グランは無理だったかもしれないけれど、パ・ド・ドゥまでは踊らせてもらえるチャンスがあったでしょうね。「ちゃんと」踊れるかどうかはまた別問題ですが…。

そんな「可能性」に思いを馳せる時、私はたしかにQのいる人生を楽しんではいるけれど、ちくりと胸が痛むのも事実です。