イギリス・バレエ・ライフ (7)-燈台もと暗し 

私達が住んでいた寮の隣は教会でした。私たちの寮がそもそも、その昔、その教会によって寄付された建物だったんです。

で、ある日なんでだったかいつもより早く家に帰ったんです。そしたらおだんご頭のレオタード姿の女の子たちがわらわらと教会から出て行く…。あらら? ひょっとしてお隣の教会でバレエ教室やってる?

イギリスでは教会ってコミュニティ・センターの役割も果たしているんですね。で、隣の教会で水彩画だのロシア語だの教えてるのは知ってたんですが、バレエを教えてるとは知らなんだ。

で、そうこうしているうちに、近くのスーパーに「大人のジャズ・バレエ教えます」の張り紙が…。イギリスでは、新聞の売店やらスーパーの売店の「掲示板」というのも重要な情報交換の場。不動産情報や車の売り買いの情報なんかもよく出ています。

それで、とりあえず行ってみました。そしたらね~、生徒が私1人だったのよ。で、「バレエの部」と「ジャズの部」に分かれてて、最初のバーはバレエ。フロアになるとジャズの動きが入るって感じだったかな? バレエの部分はなんとかついていけるんだけど、ジャズの方になるととたんに動けない…。

それはともかく、「生徒が集らなくてクラスが成り立たないかもしれないので、良かったら10代の子たちのクラスに来てみる。すっごく上級だけど…」と言われました。「すっごく上級」に恐れをなしたが、とりあえず行ってみることに…。

10代の半ばぐらいの女の子が2人という小規模クラスでしたが、とりあえず一緒に動いてみる。先生は「あら、あなたグレード○ぐらいはあるわ」と驚かれていました。多分イギリスで大人でバレエを始めて、グレード○(残念ながらなんだったか覚えてない)まで行くのって大変なことなんでしょうね。日本だったらそんなことないと思うけど。

ここはIDTAという、RADよりはワンランク下というか、あるいは目指してる物がちょっと違う協会のメソッドに基づく教室です。だからバリバリクラシックというよりは、もうちょっとマルチにダンスが出来る教師を養成してるって感じです。

クラスは本部から送られてくる「シラバス」に沿って進みます。ちょうど試験の直前だったので、ほとんど「試験対策」って感じで、バーも当日の試験で出るもの、フロアも試験で踊るアンシェヌマンでした。

女の子たちはバーからポアント履いてたので、先生が「すっごく上級」とおっしゃる通りに「上級」のクラスだったのかもしれません。でも、日本の10代半ばだったら、もっと踊るなぁ…という感じ。

ただ、日本の10代半ばの子たちが、「えいや!」と色々な技が出来ても、イギリスでやってるみたいに「ていねいに、ていねいに」同じパを「くりかえし」「きちんと」「モノにしていく」っていうような練習を(部分的にでも)重ねているかっていうと、必ずしもそうでもないかもしれない。きちんと積み重ね方式のところももちろん沢山あると思うけれど。

こういう「ゆっくり」の練習を重ねた上で、「身体の条件が良く、素質のある子たち」だけが、専門教育に入り、徐々に難しい技にもチャレンジしていく…それがイギリス・システムなのかしら。

2人いる子のうち1人は確かに「それなり」に上手でした。彼女はフルタイムの学校に合格して先生への道を進むようでした。もう1人の子は「3歳からやってる」にしては「ちょっとなぁ」とも思ったが、ま、日本でも「小さい頃からやってる子」みんなが上手な訳じゃないもんね。

ITDAの方がお月謝とか受験料も安いみたいで、RADの学校に習いに来る子供達の階層差というようなものも、あるいはあるのかもしれないです。RADの方は身体の条件もとても厳しいみたい。ITDAの先生は主要な専攻が「バレエ」じゃなくてむしろタップだったりコンテンポラリーだったりっていう人も多く、そのためっていうのもあるかもしれませんが、スタイル的にも必ずしも「バレリーナ!」って感じじゃない先生も多いんですよね。

実際、この教室を主宰しているア○先生も、助教授のヘ○ンも、バレリーナにしては、ではなく、普通人としても「太目」、というより「太い」だった。少なくとも日本人の基準からすれば・…。タップとかの場合、こういう体型の方がいいのか
なぁ…。そんなこともないと思うけど、いつだったかネットでレエ学校を探した時、バレエよりタップなんかの方が主流の学校の先生達の写真が全員「太目」でした。

でも、まぁ、この教室に出会ったことで、「かけもち」によって「なんとか週1回」をキープできるようになり、とりあえずは良かったです。

そうそう、この教室で助教をやっていたヘ○ンとは、後にMTSというやはりMにあるシアター・ダンス系の学校で再会することになります。バレエの世界って狭いですねぇ。

イギリスでは色々なことをグレードで計るので、たとえば、NBTのワークショップに出た時なんかも、バーやフロアのレベルを決めるために、まず、参加者のグレードを言わされます。で、私は、いちいち「大人から始めたんだけど、10年以上やってて、そこは大人から始めた限界はあり、ちゃんとは踊れないけど、そこそこは踊れます」
などとくどくどと言い訳がましく説明しなくちゃならないのね。なので、いずれグレードを取ってみるのもいいかなぁと思います。シラバスに沿って体系的に勉強してみるっていうのも、バレエを体系的に理解するのに役立ちそうだなぁって思います。